1. セメントについて
セメントの意味は、セメント会社で製造されるコンクリートやモルタルの主原料をイメージする人が多いと思いますが、接着材料の総称です。接着材料としては、石灰、石膏、アスファル等や歯科用セメント等、たくさんあります。
身近なセメントでは、ホームセンターでも購入可能で、袋入りで粉末の状態で売られています。セメントは、そのままの状態で使用することは少なく、ほとんどの場合が水と混ぜ、これに砂や砂利等も一緒に混ぜて使用されます。このように、砂、砂利等の骨材どうしを接着する材料ということでセメントと呼ばれています。
セメントの歴史は古く、近代のセメントとは異なりますが、古代エジプトでも使用されたともいわれています。この近代のセメントは、産業革命時代に開発されポルトランドセメントと呼ばれています。イギリスのポートランド島にあるポートランド石に似ているということから呼ばれたとセメント関連の書籍に記述されていますが、実際には、ポートランド石は、ほとんどの人が見ていないので、「そうなんだ」程度になると思います。また、日本では、幕末の頃にフランスから輸入したのが最初だといわれています。
セメントは水和反応といって、水との化学的反応で硬化して、骨材同士を結びつけますが、その接着力は、骨材の形状や表面積に影響します。コンクリート構造物やコンクリート製品を安価に製造する上で、骨材より高価なセメントを効果的、効率的に使用する技術が不可欠になっています。
セメントの主な原料は石灰石、粘土、珪石及び鉄原料です。これら原料の混合物を高温で焼成したものをクリンカと呼んでいます。このクリンカの成分量が後に製品化されたセメントの特性に大きく影響します。クリンカを構成する鉱物の主な主要成分は、次の、
① ケイ酸三カルシウム(略号C3S:エーライト) ② ケイ酸二カルシウム(略号C2S:ビーライト)
③ カルシウムアルミネート(略号C3A:アルミネート) ④ カルシウムアルミノフェライト(略号:フェライト)
であり、酸化カルシウム(CaO)、酸化ケイ素(SiO)、酸化アルミニウム(Al2O3)及び酸化鉄(Fe2O3)でクリンカ自体は、化学成分からいうと純粋なものではありません。また、資源の有効利用から原燃料には多種多様なものが使われ、厳密にはその他の成分も含まれていますが、規格品であることから十分な品質管理によって、安全性を確保した製品になっております。
2. セメントの種類について
一般に使用される種類を大きく分類すると、一般的な「ポルトランドセメント」とポルトランドセメントに混合材(高炉スラグ、フライアッシュ、シリカ等)を混ぜたものと各種用途によって開発された「特殊セメント」の3つに分類されます。
3. セメントの規格について
セメントは特殊品を除き、ほとんどの製品は、JISによって規格化されています。セメントは原料を1,400℃以上の高温で焼成して製造するため、熱分解によって無害化されるものも多く、その原燃料(原料と燃料)として、産廃物や副産物が有効活用されています。この量は、セメント協会資料によれば、セメント1t当たり、1998年では295kg/tと年々増加して、2005年では400kg/tになっています。そこで、セメントの規格では、原燃料の影響を最小限にするため、2009年11月20日付でJIS規格が改正されています。
JISで定めたセメントの規格はセメントの種類によっても異なりますが、化学成分として、強熱減量、酸化マグネシウム、三酸化硫黄、アルミン酸三カルシウム、全アルカリ、塩化物イオンがあり、物理的性質として、密度、比表面積、凝結時間(始発、終結)、水和熱、安定性、圧縮強さがあります。また、混合セメントにおいては、混合材の混合量を制限しています。
一般的には、化学成分の強熱減量と全アルカリおよび塩化物イオンは馴染みがないと思います。また、物理的性質では、比表面積、凝結時間、水和熱が分りにくく、特に安定性って何だろうとも思うかもしれません。
そこで、簡単に概要を説明しておきたいと思います。
ここでは試験方法は説明していませんが、JISの規格では化学的な成分の項目と物理的な、比表面積、密度、圧縮強さ、凝結および熱量等があり、セメント単体では調べられない特性値については、所定の配合にした試料を用いて検査を行います。詳しくは、JIS規格あるいは専門書を参照下さい。
(1)強熱減量について
強熱減量からは、乾燥状態の試料の質量を計測後に、高温(概ね800℃以上で熱分解)で加熱した質量の比率をもとめることによって、発揮化する有機物を推定することができます。
しかし、セメントは高温で焼成して製造するため、有機物の混入については考えられませんので、主として、炭酸カルシウムが二酸化炭素として発揮するため、炭酸カルシウム量から推定します。
(普通、早強5%以下、中庸熱、低熱3%以下)
(2)全アルカリについて
セメント中のアルカリ成分としては、Na2O(酸化ナトリウム)K2O(酸化カリウム)のアルカリ金属イオンが、骨材のシリカ質と反応することで、異常膨張してひび割れの原因になるということが知られています。
また、カルシウム(Ca)はセメントの主成分であるが、アルカリ土類金属で、アル骨の原因にはならないことも知られているため、Na2O、K2Oとしています。表現的には全アルカリとなっているが、アルカリ金属イオンを指しています。
この成分がアルカリ骨材反応に影響するメカニズムは、専門分野以外の人にとってはよく分らないと思いますが、全アルカリの数値としては、K2OをNa2Oの等価量(換算した数値としてNa2Oeq=Na2O+0.658×K2O)にして表されています。(ポルトランドセメント0.075%以下)
(3)塩化物イオンについて
塩化物は、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩等として自然界に広く存在しており、水に溶解し塩化物イオンとして測定されます。
塩素イオンという人もいますが、塩素イオンはCl+を指し、塩化物イオンはCl-を指します。ここでは、塩化物イオン(Cl-)の形で存在している塩素のことです。
塩化物は、鉄の錆の要因であることは大体の人が知っているように、鉄筋等の発錆についての影響を考慮して、セメント中の塩化物イオン量を規定しています。
(普通0.035%以下、中庸熱・低熱0.02%以下)
(4)比表面積について
面積といえば2次元の単位でcm2やm2等で表されています。この比表面積(ひひょうめんせき)は、ある物体について単位質量あたりの表面積です。重さあたりの面積は、あまり馴染みがないと思います。
表面積は、1g当たりの全表面積である比表面積で表しています。比評面積の測定は、セメントの場合の試験方法と異なりますが、粉末状の物質や多孔質な粘土鉱物等でも行われています。
セメントの比表面積は、粒の細かさを表す粉末度との関係があり、比評面積が大きいほど細かいことになります。つまり、水分子と結合する面積が大きいため、強度発現時期は早くなりますが、水和時に発生する温度(水和熱)にも影響します。この温度が高いほど、マスコン等のような厚みのあるコンクリートにおいて、ひび割れが生じやすくなるので、構造体の種類に応じて発熱量を抑えたセメントが利用されています。
セメントの用途によっても異なりますが、コンクリートを構成する骨材とセメントペーストを比較すると、収縮性はセメントペーストの方が大きく、乾燥したときの収縮量は大きくなります。
つまり、生コンが乾燥したときの水分の減少量と水和熱の影響から、ひび割れにおいては比表面積が小さいほど発生する可能性が少なくなりますが、比表面積は、小さすぎても水和反応による強度発現性が悪くなるので、これらのバランスを考えて規格値を定めています。
(普通・中庸熱・低熱:2500以上、早強:3300cm2/g以上)
(5)凝結時間について
凝結という現象を物理的に説明するのは難しいことです。また、試験によって求めるような場合も、その物質の、ある程度の硬さを凝結として決めて、その抵抗値(粘度・せん断力・貫入抵抗等)の強さで評価しています。
試験では、ある凝結の状態の強さを、針の貫入抵抗で定めて、凝結の始まりを始発と呼び、その終わりを終結としてそれぞれの特異点の時間で表しています。
簡単な説明では、固まる前の、モルタルやコンクリートは、流体ではないかも知れませんが、イメージとして、流体から固体への変り始めと終わりの強さ決めたものです。
この凝結時間は、生コンクリートでは輸送時間に影響し、JISでは現場の荷卸までの時間を規定しています。また、気温によっても凝結時間は異なり、高温になれば早くなります。
また、凝結が早いとコールドジョイントといって、コンクリートの打ち重ねた状態が一体化すぜ、構造物として、所定の性能を得られなくなります。
(普通、中庸熱、低熱の始発時間は60分以上、終結時間は、10時間以下、早強の始発時間は45分以上)
(6)水和熱について
水とセメントとの水和によって生じる熱を水和熱といいます。この単位は、J/g(ジュール毎グラム)で表しています。
国際単位(SI単位)を計量法に導入したことにより、熱量の単位はcalからJに変更されました。ジュールを熱量換算する場合は、1cal=4.18605Jになります。分かり難い場合は、カロリー換算してください。
セメントの水和熱は、セメントの種類とその比表面積や成分によって異なります。先に述べたように、特に、マスコンクリートといって、ダムや橋梁で使われるようなコンクリートの打ち込み厚みが大きい場合は、熱が閉じ込められるため、コンクリート内部の温度の影響によってひび割れが生じる温度ひび割れが、発生しやすくなります。
コンクリートの厚みを大きくする際には、通常は中庸熱や低発熱のセメントが使われます。
(中庸熱、3日:7.5 7日:15.0 28日:32.5J/g以下、低熱、7日:250、28日:290J/g以下)
(7)安定性について
安定性とは、一般には、大きな変化がない事であると理解されます。セメント・コンクリートの品質における安定性も、同様に、異常な膨張による容積変化(体積変化)等がないことを検査します。
コンクリートでは、一般には骨材の安定性で、凍結融解に対する物理的変化が検討事項になりますので、硫酸ナトリウム溶液に浸し、乾燥作業を繰り返して骨材の損失量から骨材の安定性を調べます。
セメントの主原料である石灰がフリーライム(未反応の酸化カルシウム)の状態であると、水和によって膨張することがあります。また、セメントには、酸化マグネシウム(MgO)も含まれています。JISでは5%以下としています。
酸化マグネシウムは、水和によって水酸化マグネシウムになり、この水和熱による膨張が考えられます。
さらに、セメントは、添加石膏量が過剰にあるとエトリンガイトと呼ばれる結晶の成長が著しくなり膨張することも考えらえます。この現象を利用して軟弱地盤を改良するために製造されているのがセメント系固化材です。
これらの異常膨張の可能性は、安定性試験といって、セメントペーストで作ったパットと呼ぶれる試験体を湿潤状態で24時間養生後に、90分間水中で沸騰させて、自然冷却後にひび割れやそりの状態等の異常の有無を確認します。
この試験の判定は良否で決めています。当然、否は不合格です。
4. セメント使用期限について
セメントは、放置しておくと気中の水分を吸収してしまいます。これを風化といい、「風邪をひいたセメント」と呼ぶ人もいます。当然、風化していますので品質は劣ります。袋に入っているセメントでも、カチカチになっているものもあります。
これは、セメントの最大の欠点であり、そのままの状態では長持ちはしません。しかし、このような風化を最小限にするために、セメント工場、生コン工場、工事現場ではセメントサイロと呼ばれる空気の流れを遮断した容器で保管しています。このような、保存状態を良くした状態では6ヶ月程度といわれていますが、使用途中の袋セメントでは、そんなに長く持ちません。
一般にセメントは購入後に直ぐに使用することを前提にしていることと、セメントメーカーは需要に応じた生産を行っていることから、食品のような賞味期限、使用期限を定めていません。
ただし、日本建築学会の 鉄筋コンクリート工事の解説には、記述され、その文面の要約は、「セメントの貯蔵期間が長いと空気中の水分や二酸化炭素を吸収して風化が進行して品質が低下するので、購入後2ケ月以上経過したものについては、強熱減量等の品質を確認し方が望ましい。」と記述されていることからも、使用する量を決めて、使用直前に購入した方が良いということが読み取れると思います。
5. 取り扱いの際の人体への影響
セメントメーカーが発行しているMSDS(製品安全シート)というものがあります。これには、粉塵・防塵マスクを着用して下さいと記述されています。また、素手で触った際や目に入った際の注意や使用する際の保護についても記述されています。
これは、セメントメーカーのホームページからダウンロードできますので、使用前に読んでいたほうが良いと思います。
また、使用の前に製品安全シート(MSDS)をお読み下さいとパンフレット等にも記述されています。
粉塵によるじん肺への影響ですが、セメントを製造する工場、使用する生コン工場や工事現場でも防塵マスクは着用しています。
また、セメントは無機物で、石灰石が主成分で、少量であれば、あまり心配ないといわれています。
しかし、セメントはアルカリが強いので、素手で作業したりすると手が荒れる人がいますので、アレルギーのある方は注意が必要です。これもMSDSに記述されており、ゴム手袋などで保護して下さい。