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補修・補強・混和材

1. 補修と補強および損傷と劣化

構造物の性能の回復を図る時期的な度合いや状態について、土木・建築の分野では、「補修と補強」に分けて使い分けています。

一般に、「補修」は、削れたり、綻んだり、傷んだりした箇所を繕うことをいいます。コンクリート構造物は、全部を取り替えるためには、費用や期間がかかります。そのため、構造物の現状の役割や機能を停止することなく、各種補修工法で対応することがあります。美観・意匠性が高いものでは、補修・補強だけでは対応が困難な場合もあります。

また、補修した箇所が傷口になって、将来、さらに悪化することも防止しなければなりませんので、その傷口に見合った補修工法(補修材料)を選定します。

一方、「補強」は、壊れたり、傷んだりした部分の範囲が広くなって、その損傷部分が受け持つ役割(支持力、耐久性等)を得られなくなり、構造物の全体や他の箇所に影響して耐力が弱くなってしまうような場合、その部分は、他の部材等で応力の分散できる構造等の補強対策をしなければなりません。すなわち、弱い分や足りないところ、あるいは足りなくなってしまった部分を補うことを補強といいます。

コンクリート構造物の補強では、弱くなった部分を直しても、力の伝達によって、壊れている箇所・範囲だけでなく、他の箇所をサポート部材等で補強する場合もあります。

次に、補修と補強の原因ですが、これは数多くありますが、まずは、劣化なのか、損傷なのかを考える必要があります。

「損傷」は、怪我みたいなもので、時間経過に伴っては進行しません。しかし、怪我が原因で、バイ菌が入って病気になることもあります。これは「劣化」を早める要因になります。

つまり、「劣化」は、時間経過に伴って進行するものです。したがって、鉄筋の錆は劣化になります。

コンクリート構造物の損傷をこれに当てはめると、コンクリート打設時に粗骨材が集まってしまった箇所のジャンカや打ち重ねの不手際等によって一体化できなかった部分は損傷になります。これに対して、コンクリートのアルカリ骨材反応や塩害等は年月が伴うので劣化ということになります。

コンクリート構造物の損傷・劣化は、材料、施工、環境、構造的な原因で様々な形態で発生します。

2. 補修と補強の対策

コンクリートの補修や補強は、発生原因によって、変状箇所の状況が異なります。これに応じて、拡大・再発および余命等を考慮して、コストを含めて対策を行います。

補修・補強工事は、劣化要因によって適切な補修工法や材料を選定して実施しますが、幾つかの工法を併用して実施されることもあります。

 

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土木構造物は、社会資本になっているものが多く、補修・補強対策は、時間的な目標を必要とします。これは、緊急あるいは応急的処置、暫定的な処置、延命および恒久的処置に分けて検討します。

○応急的:まずは、安全性を主目的として、変状進行・原因排除は次のステップとして考える。

○暫定的:変状部分、影響範囲の原因排除までは考慮せずに、変状が顕在化した部位のみを随時処置していく。

○延命的:変状部分の補修と要因の排除、被害の拡大を抑制し、数年間の再発防止を行う。

○恒久的:内外の劣化要因の排除と軽減を行って、10年以上の効果を期待した施工。

一方、建築の補強では、主として耐震、免震、制震等の対策が多いようです。

 

3. 半たわみとは 半たわみ舗装

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一般の道路舗装構造の補修・修繕は、路盤や路盤の一部まで打ち換を行う場合と局部的に打ち換える場合および表層・基層の一部を削り取ってから行う場合や切削オーバーレイ、磨耗・劣化による窪みをアスファルトで被せるオーバーレイ舗装等があります。

一般に、コンクリート舗装は、切削オーバーレイは困難であるため、舗装版を打ち換える手法が行われます。また、コンクリート打設の養生時間を考慮して、コンクリート舗装の表面に新たなアスファルト舗装を施すこともあります。

このように、アスファルトは、「たわみの特性」(軟らかい)があり、コンクリートは、剛性が大きい(硬い)ことからこのような補修が行われています。

半たわみとは、この軟らかすぎず、硬すぎずの中間的な特性を意味するようなニュアンスで使われています。すなわち、アスファルトに比べて、塑性変形の抵抗性が大きいということです。

半たわみ舗装は、わだち掘れの出やすい箇所、自動車等の通行時の荷重が大きくなる箇所の料金所付近、バス広場、トラックヤード、等で利用されています。材料素材の特性から耐油、耐火性も良いので工場やガソリンスタンド等にも利用されることもあります。

実際には、空隙の多い開粒度アスファルト混合物の空隙に特殊セメントミルクを流し込んで施工します。これは、セメントミルクの流動性が優れているから行えることです。また、道路では通行帯や渋滞等の問題もあり、養生時間を短縮しなければなりませんので、硬化速度が早いことが望まれます。

一般的な半たわみ性舗装の特徴は次のようなものがあります。

・表面は硬く、たわみ性がある。(わだち掘れ症状の低減できる。)

・使用各所によって異なるが、コンクリート舗装のような目地はいらない場合が多い。

・アスファルトに比べて、耐油性、耐熱性、難燃性に優れている。(路面温度が低下する。)

・使用材料の種類によって養生時間が異なる。

・アスファルトに比べて、路面温度は低下する。

※わだち掘れとは、道路舗装で路面の自動車の車輪が通過位置に生じる凹みをいいます。

※たわみ(撓み)とは、部材が荷重により曲線状に変化することで、垂れ下がるような状態をいいます。

 

4. 乾燥収縮の抑制

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生コンクリートには、水は必ず使用します。したがって、遊離水の蒸発は避けられません。そのため、乾燥収縮ひずみによるひび割れを避けるのは難しいといわれています。

ひずみとは、変形後に長さ(変位量)と基の長さの比です。この収縮ひずみには、温度収縮と乾燥収縮があります。

図に示すように、収縮ひずみでは接続部分が拘束されていると収縮による自由変形ができないため、部材は引張の力が働き、図のようなひび割れが発生します。

また、膨張ひずみは、同じように部材が拘束された状態だと、圧縮側に力が作用しるため、これに直交する方向で引っ張り応力が発生します。この横ひずみと縦ひずみの比をポアソン比と呼びます。ひび割れの方向は、収縮ひずみの場合とは異なります。

拘束された条件におけるこの乾燥収縮ひずみによるひび割れの傾向は次のようになります。

・単位水量が多いほど大きい

・温度が高いほど大きい

・部材の断面積と外気に接する長さ(周長)が小さいほど大きい

・湿度が低い環境ほど大きい

・鉄筋比が少ないほど大きい

乾燥収縮を抑制する対策としては、材料選定、施工(養生・脱枠等)、混和剤、構造等があり、  

①石灰石のような乾燥収縮の小さい骨材を使用する。  

②単位数量を低減するために、減水剤や骨材の最大寸法を大きくする。

③逸散水乾燥を抑制するための、湿潤養生、日射低減、防風および脱枠までの期間の延長等の対策

④収縮低減剤の使用

⑤膨張剤の使用。

等があります。また、繊維補強コンクリートも対策の一つになります。

 

5. 膨張材について

コンクリートは、持続的に力が加わると、徐々に変形するクリープという特性があります。一方、鉄には、この現象が起きないので、鉄筋コンクリートの場合、鉄筋にコンクリートが付着しているので、コンクリートは、鉄筋から引張力を受けるようになります。反対に鉄筋は、コンクリートから圧縮力を受けます。

クリープの現象による変形は、打設後約1年で大きく見ら、時間経過に伴って、応力度の変化は減少していくことが知られています。このような現象を抑制するのが膨張材を使用する膨張コンクリートです。また、乾燥収縮ひずみ等の対策や水和熱抑制剤がブレンドされている膨張材もあり、温度ひび割れ対策にも利用されています。

膨張材は、ヒューム管やボックスカルバート等のコンクリート製品の初期のひび割れ体策や後のひび割れ幅の低減に大きな効果を発揮しています。

工事現場では、大面積の床、長い壁等はひび割れが発生が顕著になる可能性が大きい箇所や、浄水、貯水施設等の水漏れを嫌う構造物あるいは意匠性を重要視した建築物にも使用されます。

膨張材の種類は、主原料からカルシウム・サルフォ・アルミネート系(CSA)と、生石灰系の2つがあり、この中間品も開発されています。使用においては、適正な配合量で混合しないと、弊害が生じることもあります。

商品化されている品質は、JIS A 6202に規定されたものであり、主原料以外に、水和速度をコントロールするための石膏、シリカ等も含めて製造しており、低膨張材、高膨張型膨張材、低熱膨張材等の品種があります。

膨張材の効能としては、セメントの水和から硬化までの過程でエトリンガイト(エトリンジャイト)という水和化合物が生成されます。エトリンガイトが多すぎるとコンクリートが膨張しますが、この膨張の状態を膨張材の添加量で調整して使用することによって、コンクリート中の空隙を充填してクリープや乾燥収縮を抑制することができます。

 

6. 中性化対策、補修

コンクリートの中性化は、大気中の二酸化炭素がコンクリート内に侵入することにより、炭酸化反応をしてアルカリの損失により、鉄筋周りの電気化学的な反応が少なくなり、鉄筋の表面仕上げにおける不動態被膜が破壊されやすくなります。これにより、コンクリート中の鋼材は腐食して膨張しますので、コンクリートのひび割れ発生しやすくなり、被りの剥落等の原因になります。

中性化の調査は、簡易なフェノールフタレイン法や中性化深さを調べるハツリやコア採取による方法および構造物できるだけ傷つけないドリル法等があります。

一般的な補修としては、二酸化炭素の浸入を遮断するために、コンクリート表面をコーティングする手法が行われ、各種の表面皮膜や含浸剤が使用されています。ただし、永久的に効果が持続するようなコーテイオング材は一般には普及しておりません。

再アルカリ化は、コンクリート中の鋼材をマイナス極として、コンクリート表面にアルカリ性の電解質溶液、陽極材、保持材からなる陽極を設置して、通電することで、アルカリ性の電解質溶液を電気浸透させる工法のことです。

中性化の補修は中性化の程度により異なり、次のような対策がとられています。

 

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7. ひび割れ充填・注入について

一般のひび割れ補修では、表面塗布工法、注入工法、充填工法を状況に応じて組み合わせて実施しています。

通常、0.2mm以下の微細なひび割れであれば、表面被覆材や目地材等をコンクリート表面に塗布してひび割れ部分を被覆する表面塗布工法で対処しています。

注入工法と充填工法は、ひび割れを外部から閉塞して劣化因子の侵入を遮断する方法です。

注入工法は、50~300mm間隔で注入治具を設置して、各種注入材(エポキシ樹脂、アクリル系、セメント系等)を高圧あるいは低圧で注入にする方法です。一般には、低圧注入で行われているようです。

一方、充填工法は、0.5mm以上の比較的大きな幅のひび割れの補修に適しており、ひび割れに沿って表面を幅と深を10mm程度にカットした後に充填材を充填する工法です。

鉄筋が腐食していない状態で、ひび割れに動きがある際は、ウレタン樹脂、シリコン樹脂等のシーリング材あるいは可とう性エポキシ樹脂等の変形追従可能な材料を注入します。また、ひび割れの動きがないときには、ポリマーセメントモルタルで行われることが多いようです。

充填工法において、鉄筋が腐食している場合、コンクリートをはつり、鉄筋の錆落としと防錆処理をした後にポリマーセメントモルタル等で断面修復します。

使用材料においては、アクリル系の方がエポキシに比較して湿潤状態での硬化性能は良く、実績もあるようです。また、湿気硬化型のエポキシ樹脂もあります。

セメント系とポリマーセメント系は、エポキシ樹脂注入材に比べて単価は安く、材料の熱膨張率はコンクリートに近い値であり、湿潤箇所にも適用可能です。また、材料自体のアルカリによる防錆効果もあります。ただし、施工面では、乾燥状態での目詰まり等に留意して行う必要があります。

 

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8. コンクリートの余盛りと杭頭処理

杭を築くための場所打ち杭には各種の工法があります。場所打ち杭の、削孔の工程において、孔壁の崩壊を防ぐために安定液といってベントナイト泥水等を使用する工法があります。

削孔時に使用される泥水は、削孔中に土中の粘土分が含まれたりしたものが排出され、それを比重調整して循環して使用します。また、孔底にはスライムといって削孔屑や沈殿物もあります。

この泥水の密度(比重)はコンクリートに比べて軽いため、コンクリートを打設すると、それまで孔内にあった泥水は地表面に排水されます。

地表面に近い杭のコンクリートは、このような泥水やスライム等が混入しているため、コンクリートとしては良くない状態になっているため、オーバーフローさせて打設します。すなわち、地表面には余盛りした状態で杭頭が出来上がります。

この余盛り部分は、杭工法によって異なり、リバースサーキュレーションやアースドリルといった工法では、余盛り高さは概ね0.8m程度になります。一方、オールケーシング工法は、鋼製ケーシングチューブで孔壁を保護しながら圧入し、ケーシングチューブ内の土砂をハンマーグラブにて掘削・排土する方法なので、余盛りは0.5m程度になります。

杭頭処理は、一般には杭の周囲に予めカッターで切り込みを入れ、くさびで亀裂を入れた後、仕上げはピックで丁寧に所定の高さまで、はつります。

また、振動・騒音に配慮して、静的破砕剤を用いる場合もあります。これは、石灰と水との反応の膨張作用により、装てんした孔内で膨張させて、亀裂を入れて処理する方法です。

 

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9. 静的破砕剤

静的の反対が動的です。動的な破砕方法として、発破や爆薬のように、ある方向に所定の大きさで瞬間的に破壊するものがあります。

この動的な動きに対して、破壊対象物に薬剤を挿入して、時間を掛けて膨張させながら、コンクリートや岩のような硬質なものを破砕する膨張剤を静的破砕剤といいます。

動的な爆破解体は、爆音や騒音として周囲に振動等により周辺環境(山岳であれば生態系、都心であれば騒音や破片の飛散等)に害を及ぼすことがあります。

このような害を最小限にするために、破砕対象物に予め、孔を開けて、膨張剤を充填し、拘束された孔に膨張圧を与えることにより、クラックを発生させて計画的に破壊します。

破壊までの時間は、静的破砕剤の種類や孔の数によっても異なります。特に、反応速度は、周辺の温度にもよって異なるため、数種の静的破砕剤の種類を選定しつつ実施します。

静的破砕剤は、主として生石灰タイプのものが多用され。概ね30MPa(メガパスカル)(≒300kgf/cm2)圧力を発生させることができます。

製品は、使用直前に水と攪拌して孔に充填するタイプと水を含ませた後で孔に挿入するカプセル状のものがあります。また、杭頭処理用専用としている製品もあります。

これらの静的破砕剤は、火薬取締り法や消防法等の規制を受けませんが、大量に保管する場合には注意が必要です。

また、反応中は強アルカリであるため、手や目につかないように保護、防護を行うことが必要となります。

 

10. コンクリートの表面保護

表面被覆工法は補修工法の代表的なものです。コンクリートの表面保護は、コンクリート表面に保護層を形成して劣化因子の侵入を遮断するために行なわれる補修工法の一つですが、新たなコンクリートにおいても、予防策として使われることもあります。また、地上構造物だけでなく、埋設構造物(埋設管等)にも使われています。

表面保護の材料には、表面被覆材と表面含浸材があります。前者は、塗装材やシートでコンクリート表面を覆う材料ですが、塗装材によるものが多用されています。塗布する際には、数種の材料が用いています。また、コーティンングやライニングと呼ばれることもあります。

後者は、特殊な機能を付与させた材料で、コンクリート表面をコンクリートの表層から数ミリ~数十ミリ程度まで浸透して、コンクリート中の成分と反応して防水層を形成して改質します。含浸材は、表面被覆の場合と同様に、コンクリート表面を、はつり、ケレン、洗浄等の下地処理を十分に行った後に実施します。ただし、通常の塗膜と異なって、先に述べた改質効果により、コンクリート内部の空隙やひび割れに浸透して効果を発揮するとされています。

コンクリートの保護や補修では、劣化要因に適している施工方法(工法)で行われます。劣化要因は、中性化、塩害、化学的侵食等があります。中性化では、ガス透過性の小さくできる材料を塩害では遮塩性に優れている材料を選定します。

浸透性防水材塗布工法では塗布した浸透性防水材(シラン系、シリコン系、触媒性化合物系等)が使われています。また、工場生産品のコンクリート製品でも使われることがあります。

 

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